2014年04月03日

『世界から猫が消えたなら』川村元気

タイトルだけで切なくなりそう。



家族って「ある」ものじゃなかった。家族は「する」ものだったんだ。 ― 178ページ



『ハーメルンの笛吹き』はネズミと子どもがいなくなる話。
そのネコ版でしょうか。
いいえ、それよりももっと荒唐無稽な話でした。

キャベツというネコと暮らす、余命わずかの主人公。
死を前に思い出すのは、4年前に先立った母親のこと、そして不和が続く父親のこと。
初恋の彼女に会いに行ったりネコをかわいがったりしながら、その愛情は常に母親の記憶へと向かっていきます。

反面、どうしても父親を許せずにいる主人公。
過去と惜別できていないために、現在とうまく折り合えず、父との関係も長らく修復できないまま。
はがゆさが伝わってきます。

初恋の彼女に会いに行ったのも、失った母の代わりに自分を愛してくれる存在を求めてのことですが、クールな反応を返されるところが妙に現実的。
彼女とでさえ、面と向かってより電話の方が楽しく会話ができるというのも、現代的。

死神との契約により、この世から電話と映画を消した主人公。
自己の表現ツールと趣味を失って、それでも人は生きていきたいものなのか。
死神の意図がよくわかりませんでしたが、アロハシャツを着て登場した死神は、これまでにない斬新なキャラクターです。

センチメンタルな言葉のモノローグが綴られていく、共感を持ちやすい流れですが、(あれ?)と気になった点がありました。
本の表紙の、のぞいている猫の写真は、見るからに子猫なので、てっきりキャベツも子どもだと思っていましたが、時系列に合わせて計算してみると、今13歳位ということになります。
もう老猫ともいえる年で子猫どころではありません。
猫の描写からは、子どもとも大人とも推測できませんが、そろそろ寿命年齢ならば、タイトルの意味もまた少し違う捉え方がされそうです。

きちんと作りこまれた話で、泣けそうなシーンは随所にありましたが、死神の登場でファンタジーっぽくなっていたためか、ダイレクトに感情が揺り動かされることはなく、ふんわりとした印象のまま読み終えました。
ただ、全て読み終えて再びまえがきを読んだ時に、この物語全てがある人に宛てた長い手紙だったことに気づいて、グッと来ました。
posted by Lily at 18:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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