2010年04月20日

『真夜中の五分前 five minutes to tomorrow side-B』本田孝好



−僕はこれからも色んなものを失っていくだろう。けれど、僕はそれらを一日の小さなかけらの中に集め続けるだろう。小さなかけらはやがて結晶となって、僕を形作ってくれるだろう。(p189)

本田孝好『真夜中の五分前』.jpg

A-side、B-sideって、なんなのでしょう。
主人公は変わらず、単にAから2年後の話となっています。
その2年のうちに、主人公はまた恋人かすみを事故で失っていました。
愛した女性の二人とも事故で死んでしまうとは、不憫です。

事故の時、妻は双子の姉かすみと入れ替わったのではないかと疑う、ゆかりの夫。
話は一気に混沌としてきます。
親も間違う一卵性の双子。何でも話し合ってきた二人。
主人公が会っても、かすみかゆかりか判断が付きません。
おそらく生き残った当人も、得がたい半身を失って、自分がどちらなのか、わからなくなってしまったのかもしれません。

エンディングにはビター色が強く、最後のまとめ方がよわかりませんでした。
5分間の鎮魂歌ということでしょうか。
村上春樹色を感じるストーリーですが、伝えたいことがよく汲み取れなかたのが残念。

失われた愛と失った自己、そして世間からずれた5分間に、ひたと目を向けられるようになった主人公のかすかな成長が、希望を感じさせる終わり方でした。
posted by Lily at 14:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『真夜中の五分前 five minutes to tomorrow side-A』本田孝好



−そろそろ終わりかけていることは僕にもわかっていたし、たぶん祥子にだってわかっている。あとはどちらが被害者になって、どちらが加害者になるのか。その役を割り振るだけだ。(p19)

本田孝好『真夜中の五分前』.jpg

初めて読んだ本多孝好作品です。
AもBも薄いので、すぐに読めるかと思いましたが、思ったよりも読了に時間がかかった本でした。

6年前に恋人が事故死しで以来、女性と付き合っては別れを繰り返している主人公。
といっても、死んだ恋人を引きずっているわけではなさそうです。
仕事もそつなくこなすのに、クールで情熱が感じられない彼。
名前が最後まで語られないのは、深い意味での主体がないことと一致するように思います。

女性遍歴を重ねて、新たに知り合ったのは、一卵性双生児のかすみ。
彼女の、妹ゆかりの婚約者への叶わぬ思いを知った時、彼も、隠しこんでいた死んだ恋人への気持ちがあふれだしてきます。

愛に傷ついた者同士が互いに癒し合うエンディング。
これでも十分まとまった物語ですが、話はB-sideへと続きます。
posted by Lily at 14:09| 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年02月11日

『ライオンハート』恩田 陸


−離れた瞬間から、会う瞬間を待ち続けている。

時代を越えてめぐり合う、エドワードとエリザベス。
ただひとときの逢瀬を果たし、そして別れていきます。
時代ごとにそれぞれが違う立場や年齢に変わり、片方が相手を認識していない場合もあります。

出会いと別れを果てしなくくり返し、相手を焦がれるほどに求めていきながら、未来永劫、決して結ばれることはない、切ない恋愛。
このテーマをもとにした、五編の連作短編集となっています。

<表紙裏のあらすじ>

それがどうして始まったのかは分からない。

神のおぼしめしなのか、気紛れなのか、手違いなのか。
私たちは何度も出会っている。
結ばれることはない。

でも、離れた瞬間から、会う瞬間を待ち続けている。
生まれる前も、死んだあとも。
あなたを見つける度に、ああ、あなたに会えて良かったと思うの。
いつもいつも。
会った瞬間に、世界が金色に弾けるような喜びを覚えるのよ。

いつも、うれしかった。
覚えていてね、わたしのライオンハート…。

<感想>
時代を越えてめぐり合う、エドワードとエリザベス。
ただひとときの逢瀬を果たし、そして別れていく。
時代ごとにそれぞれが違う立場や年齢に変わり、片方が相手を認識していない場合もある。出会いと別れを果てしなくくり返すけれど、決して結ばれることはない、切ない恋愛。
構成はこのテーマをもとにした、五編の連作短編集。

1.「エアハート嬢の到着」:1932年のロンドン。
雨の中、猥雑な人ごみの中での二人の邂逅シーン。エリザベスは少女、エドワードは青年。
エリザベスはエドワードのことを探すが、エドワードは全く状況がつかめない。かみ合わない二人の心。そしてエリザベスはエドワードの腕の中で死ぬ。
緊迫感が良く出ている。出だしとして、ミステリー調で読者を作品世界へといざなう牽引力のある作品。

2.「春」:1871年、普仏戦争後のシェルプール。
農園の一本の林檎の木に雨宿りをする兵士と画家。雨の後に空に浮かんだ、二重の虹。自然の美しい光景の表現が光る。
エドワードは戦争で負傷し、エリザベスに会うために脱走してきた兵士。
エリザベスは美しい娘で、5編の中では互いに一番ピッタリ合う年齢だけれど、彼女はほかの男と結婚したばかり。
そして逢瀬ははかなく、すぐに別れが訪れる。その直後にこときれるエドワード。ミレーの絵の作成秘話としても作り上げられている。

3.「イヴァンチッツェの思い出」:1905年のパナマ。
息詰まるサスペンス調の作品。メインは違う老人で、エドワードとエリザベスはかなり本論からそれた形になっているけれど、最後につながるという構成。
個人的に、このミュシャの「イヴァンチッツェの思い出」は、とても好きな絵なので、かなり集中して読んだ。
この話を独立させて一本の作品にしてもよいのでは、と思う。
最後に付け足しのようにちらっとだけ出てくる二人の逢瀬。エドワードは若者、エリザベスは病にふせっている中高年代の女性。

4.「天球のハーモニー」:1603年のロンドン。
エリザベスは、実在のエリザベス女王となっている。
そもそも、このエドワードとエリザベスの時空を超えた愛とつかの間の逢瀬の意味が、ここでわかるようになっている。
リアルな人物の荒唐無稽な話になってしまったので、あまり想像力を広げることはできなかった。
そして、二人の永遠の逢瀬の理由も、なんだか弱い気がする。
お互いが求め合う、というよりも、エリザベスの呼びかけにエドワードが応じ続ける、というベクトルの向きが確定していたことに多少落胆。構築された世界についていけなかった作品。

5.「記憶」:1855年のオックスフォード。
隠居した老夫婦の物語。これもミステリー調ではあるものの、最後はまとまりよく終わる。
ただ、それまで自由にのびのびと、時空を超えた不可思議な恋愛の話を広げてきただけに、最後がこんなに小さくまとまってよいのかという疑問が残る。
個人的には少し残念。最後だけに、もう少し何かパンチがほしかった。
でも、この二人の恋愛が、あまりに残酷で、むなしくさえも思えるため、最後にはこうした幸せな結末で締めるのが、作品全体としての印象はよいと思う。

どれも読み応えのある短編だったけれど、私としては後半の4と5がいまひとつ。
きめ細かに時代構築がなされており、ヨーロッパの翻訳文学を読んでいるような印象。
各短編ごとの時代と地域ごとの雰囲気の違いを、見事に書き表している。
それにしても、私にはこの主人公二人の恋愛があまりにやるせなくて、たまらなかった。重い読後感が残る。

そして題名の「ライオンハート」という言葉が、小説内で取り入れられている効果が弱い。別にこのタイトルでなくてもよかったのでは?と思う。
ケイト・ブッシュへのオマージュということだけれど、それならもっと本編の方にタイトルの意味を込めてほしかった。

ややこしいストーリーながらも、作家の嫌味のない、わかりやすい表現のおかげで、読みやすかった。
恩田陸作品はこれが初めて。以後チェックしたいと思える作家。
posted by Lily at 01:07| 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。